創業1973年。宮崎を代表する洋食屋として長年愛され続けてきたランプ亭。2026年4月1日に移転する直前、3月に滑り込みで訪問した記録である。
「移転前に行かなければ」と思ったのは、半ば直感だった。創業1973年。50年以上にわたって宮崎の食を支えてきた洋食屋が、2026年4月1日をもって旧店舗を閉じる。その報せを聞いてから、気づけばスマホで予約の電話をかけていた。
《何屋/概要》
店名:らんぷ亭(Lamptei)
所在地:宮崎県宮崎市(※2026年4月1日より移転済)
最寄駅:宮崎駅


食べログアワード2026ブロンズを受賞した、宮崎市内でも指折りの洋食の名店。
食通の集まりやゴルフ出張の席など、大人の社交場としての顔も持つ。
《入店時状況》
平日19時半、4名での訪問。移転前とあって予約は困難を極めたが、直前の電話でかろうじて2回転目の席を確保できた。いわば奇跡的な入店だった。
扉を開けると、店内はほぼ満席。常連と思しき紳士淑女が静かに会話を楽しむ光景は、いかにもここが「宮崎の大人の店」であることを物語っていた。BGMのさりげない選曲、落ち着いたキャンドルライト、厨房からただよう香り。50年の歴史が積み重なった、唯一無二の空気がそこにあった。
《メニュー/注文方法》




前菜・スープ・魚料理・肉料理・パスタ・ライスと幅広い構成で、宮崎牛・都萬牛・南の島豚(川南町)・みやざき地頭鶏・佐土原なすといった地元食材が随所に使われている。コースは7,500円の定番コースと10,000円のスペシャルシェフおまかせコース(いずれも2名から)の2種。今回はアラカルトで攻めた。
《注文商品》



地頭鶏レバームース 900円
みやざき地頭鶏のレバーを使ったムース。鶏特有の臭みはまったくなく、なめらかな舌触りが印象的だ。地頭鶏ならではの凝縮した旨味が口に広がり、自家製のパンとともに食べ進める手が止まらなかった。見た目も淡いピンク色で上品。前菜としての完成度は高く、フレンチの技法が確かに生きている一皿だ。

佐土原なす辛味だれ 850円
宮崎を代表する在来野菜、佐土原なすを使った一品。江戸時代から続く伝統野菜をシンプルに仕上げ、辛味だれでアクセントをつける。素材の甘みが前面に出た料理で、地元食材への敬意が感じられる。「素材を素材らしく」というらんぷ亭の哲学が凝縮されていた。

カニクリームコロッケ1,900円
らんぷ亭の名物として長く愛されてきた一皿。揚げ色は深いきつね色で、割ると中からとろりとしたクリームが溢れ出す。ノイリー酒や白ワイン、シャンピニオンのピューレで風味を加えたベシャメルは、滑らかで軽やか。たらばがにの風味がしっかりと効いており、バランスが絶妙だった。先代から受け継ぎながら、2代目が日々アップデートし続けている「進化する名物」だ。


南の島豚(川南町)トンカツ 2200円
川南町の永田種豚場が手がける「南の島豚」を使用。沖縄在来種アグー豚と赤豚デュロック種を掛け合わせた農林大臣賞受賞のブランド豚だ。衣はサクリと薄く、断面からのぞく肉はロゼ色に近い美しい仕上がり。豚の甘みと脂の旨味が際立ち、ソースなしでも十分に完結していた。一般的な豚とは明らかに異なる、赤身の密度と脂の上品さに驚く。

南の島豚(みなみのしまぶた)とは?
宮崎牛の陰に隠れがちだが、宮崎にはもうひとつ、知る人ぞ知るブランド豚がある。それが、宮崎県川南町の永田種豚場が手がける「南の島豚」だ。
その出自がまず面白い。沖縄在来種の島豚(アグー)を父とし、サシの入りやすいのが特徴といわれる赤豚(デュロック)などと掛け合わせて作られたブランド豚で、農林大臣賞を二度受賞した、宮崎大学との共同開発による逸品だ。いわば「和製イベリコ豚」を目指して生まれた豚、と言えばその本気度が伝わるだろうか。
味の特徴も一般的な豚とはひと味違う。脂は淡白で甘く融点が低い。一方の赤身は旨味が濃厚で、噛めば噛むほどに味が染み入るという、いわば「脂と赤身が逆転した豚」だ。肉のきめが細かく、他の豚に比べてビタミンEも多く含まれている。
飼料にもこだわりがある。小麦・大麦・とうもろこし・脱脂大豆などを原料とした植物性100%の配合飼料を与え、出荷の2ヶ月前からは焼酎粕飼料を約10%混合して肉質に特徴を持たせている。
らんぷ亭のトンカツで供されたのは、そんな南の島豚だった。薄衣の中から現れたロゼ色に近い断面、ソースなしでも完結する甘みと脂の旨味は、この豚の素性を知ってから食べると、また格別に感じられる。
宮崎に来たら、牛だけでなくこの豚にも目を向けてほしい。

都萬牛ハンバーグ 2500円
この夜の主役といえる一皿。宮崎県西都市で育つ都萬牛は、2010年の口蹄疫で全頭を失った畜産家たちが「ゼロから理想の和牛を育てよう」と始めたブランド牛だ。霜降りを追わず、33〜48ヶ月の長期肥育で赤身の旨味を最大限に引き出す。年間出荷頭数70〜80頭の希少牛を100%使用したハンバーグは、照りのある濃厚なソースをまとい、切り開くと肉汁がじわりと広がった。肉の密度が高く、噛むたびに旨味が口中に充満する。1973年から続く看板メニューとして、納得の一品だった。

《備考》
宮崎の食材を主役に据えながら、フレンチの技法を軸としたいわば「地産地食の洋食」を供する店。気取らない雰囲気でありながら、料理の水準は確かに高い。食べログアワードの評価にも頷ける内容だった。
とりわけ印象的だったのは、都萬牛・南の島豚・地頭鶏・佐土原なすといった「宮崎産食材の深さ」だ。これらの背景を知ってから食べると、一皿一皿の味わいがまったく異なって感じられる。らんぷ亭はただの洋食屋ではなく、宮崎の農畜産業を伝える「語り部」としての役割を担っているとさえ思う。
旧店舗は50年の歴史とともに幕を閉じたが、MASAHIRO SQUAREに移った「らんぷ亭 KENJI」でも、変わらぬ灯りが続くことを期待している。